COFFEE BOY

誰にでも、ひとつやふたつ、「嘘みたいな本当の話」があるのかもしれない。

昔々、同じ少年野球チームのN君に誘われて、英会話に通ったことがある。スコットだったか、マイクだったか。いかにも「アメリカ人」という印象の、ずっしりとした大きな身体の男性で、とても陽気な先生だった。

どのあたりの地区にあったのか、よく覚えていないのだが、N君のお母さんが車で送り迎えをしてくれていた気がする。N君の家は歯医者で、僕が人生で最初に出逢った豪邸で、ジムやプールがあった。そして、N君のお母さんもまた、日本人ではあるものの、「アメリカ人」のようなノリの人だった。

はじめて英会話に行った日、もちろん自己紹介から始まった。「ドッグ」とかしか知らないレベルの小学生。緊張しながら、必死に絞りだして、「マイ・ネーム・イズ・コーヘー」と言った。僕の名前は「康平」だ。

すると、先生は「??coffee??」と。

「ノー。コ・ウ・ヘ・イ」と、強調して返した。

「OK!OK!You are COFFEE BOY!」

この日以来、その先生は、僕のことをずっと「COFFEE BOY」と呼んできた。そして、その呼び名をとても気に入ったN君のお母さんも、「COFFEE BOY」と。カタカナで書くなら、「カフィ・ボーイ」とか「コフィ・ボーイ」とかだろうか。

当時は、特になんとも思っていなかった。結局、その英会話には、そこまで長く通うことはなかったし、N君は「お金持ち」が行く中学に進学したので、「COFFEE BOY」は、記憶の彼方に消え去っていた。

小学校が廃校になったと聞いた時、「そういえば、そんなことあったな」と、突然思い出した。N君の家は、小学校から徒歩30秒の場所にあったのだ。僕は「COFFEE BOY」になって、N君は歯医者になった。